オーディオ回路の改良 1
新オーディオ基板を外した後、オーディオ回路の中にどうしても改良したかった所がありました。
それはノイズ・ブランカーという回路です。
レーザーターンテーブルにはレコードのノイズを軽減することが目的のノイズ・ブランカーという回路が入っています。
この回路は、強制的にOFFにしない限り常にONとなっていることや、OFFにしても音楽信号はこの回路の中を通り完全に分離されないため個人的に大きな不満でした。
ピックアップからの信号を辿ると、ノイズ検出回路、遅延回路、位相反転回路、補正回路、フィルター等々非常に多くを組み合わせたアナログ回路だと言う事がわかります。
確かにノイズは減りますが、私には減っているのがノイズだけは無いように聴こえます。
ノイズ・ブランカーが悪いのではなく、どんなノイズリダクションを使っても、信号に入っているノイズを後から取り除こうとすれば必ず音楽信号に影響を及ぼします。
本来ならノイズ・ブランカーは通常はOFFで、かつ信号経路から完全に分離出来て、必要のある方はONに出来るようになっている事が基本だと思いますが・・・
私は折角のレーザーピックアップのピュアな信号をそのままオーディオ回路部に入れて出力したかったので、ノイズ・ブランカー回路を完全に切り離しました。
これも個人の考えですが、プレーヤーの本来の目的は盤面に記録された音楽信号を、何も加えず、減ずる事も無く正確に取り出す事だと思っています。
ノイズが含まれているからと言ってプレーヤー側で取り除くべきでは無く、取り除けるノイズがあるのなら、再生前にバキュームクリーナーなどで取り除いてから再生するべきです。
ノイズ・ブランカー回路入りのオーディオ基板
ノイズ・ブランカー回路のパーツ(赤色)を取り去ったオーディオ基板
いかにノイズ・ブランカー回路に多くのパーツを使用しているかわかります。どんな優秀な回路でも信号がこれだけの部品の中を通れば影響を受けない訳がありません。
よく『ベールを1枚はぎ取ったような』という表現が使われますが、ノイズ・ブランカー回路を完全に切り離した音はまさにこの表現がぴったりです。
レーザーピックアップから出力された信号は一旦このオーディオ基板4ヶ所に接続されます。
この信号の中にはオーディオ信号だけでなくレコード盤の溝をトレースするための信号も含まれています。
純粋にオーディオ信号を出力するための回路は下の写真にあるノイズ・ブランカー回路左側にある黄色の部分です。
このモデルはLINE出力モデルなので、フォノイコライザー回路も入っています。
レーザーターンテーブルには CD等の入力端子に接続するLINEタイプと一般のプレーヤー同様フォノ入力に接続するPHONOタイプがあります。(最近は両タイプもあるようです。)
黄色のオーディオ基板の中からフォノイコライザー部分のみを見てみます。
フォノイコライザー無しの基板
フォノイコライザー有りの基板
私のレーザーターンテーブルはLINEタイプなのでフォノイコライザーが内蔵されておりCD入力に接続すれば再生ができます。
フォノイコライザーが内蔵されていないPHONOタイプは、プレーヤー同様フォノイコライザーが必要となります。
両方ともオーディオ基板自体は同じですが、PHONOタイプには写真のようにフォノイコライザー部に部品がありません。
レーザーピックアップの出力は昔のセラミックピックアップ並みに大きいためLINEモデルには増幅に関連するS/N等で好都合となりますが、PHONOタイプではそのまま出力すると外部のフォノイコライザーがクリップしてしまいます。このため抵抗を2ヶ所に入れて 70分の1程度まで出力を落としてMMカートリッジ並にしてインピーダンスも合わせているようです。
折角の大きな出力を抵抗でMMカートリッジ並みに下げて、外部のフォノイコライザーでまた 60〜100倍も増幅する事を考えると不思議な気がします。
そこで、回路設計の先輩方のからアドヴァイスを頂き、新たにフォノイコライザー、オーディオ出力回路、そしてバランス出力回路を組み合わせた新基板を作ることにしました。
フォノイコライザー回路は、レーザーピックアップの出力が大きくS/Nに神経質にならなくて良いことや、音質を左右するパーツは十分な余裕を持った最高のものが使えること、できる限りシンプルにしたいこと等を総合してCR型にしました。
オリジナル基板上のOP275
新たに作った基板上のMuses01
音質に最終的な影響を与えるオペアンプの選択はいろいろと迷いました。
オリジナル基板に使われているAnalog Devices OP275はバランスの良い音を聞かせてくれます。
価格を考えれば素晴らしいオペアンプですが、極僅かに硬水的でまろやかさや、優しさに不満がありました。
数週間かけて5種類のオペアンプを聴き、自然で、柔らかい上に解像度が高く高品位な新日本無線のMuses01を使用することにしました。
新たなオーディオ基板により出力は、XLR バランス出力(600Ω)がメインとなり、オリジナルのLINE出力は記念としてそのまま残しました。
LINE & RCAのW出力
こちらも個人的な感想ですが、
ノイズ・ブランカーから分離され、新たなオーディオ基板から出力されたレーザーターンテーブルの音質は大きく変わりました。
この基板によってレーザーターンテーブルのアナログ回路はオリジナルと別物になりました。
ロー・カット・フィルターも取り除いているためアンプ側でカットする必要はありますが、再生するレコードによってはフィルターを使用しない方が良いレコードも多々あります。
音のフォーカスは明確になり、やや暗かった音調は明るく程よいコントラストがあります。
奥行きもはっきり出るようになり自然な音場感に近づきました。
そして何より再生音が静かです。ピアニシモでのS/N感にはハッとさせられます。
個人的にオリジナルのレーザーターンテーブルデザインは材質も含め好きではありません。
ところがレーザーターンテーブルが生まれる20年近く前によく似たシルエットの製品がありました。
TEACのA-20という初期のステレオカセットデッキです。
1968年頃に発売されたもので、初めから単一指向性のステレオマイクが付属しているという当時としては高級カセットデッキでした。
低雑音のシリコントランジスタ2SC369を初段に採用し、正確な録音レベルがチェックできるよう、大型VUメーターを搭載しモニター録音まで出来るという家電メーカー製のものとは異なるハイファイ指向のカセットデッキでした。
左の写真だけでは分かりづらいと思いますが、操作面の傾斜と本体を絞り込んだ所は大変よく似ています。
右の写真はレーザーターンテーブルを購入したばかりの頃、シルエットが似ているなあと思い写真に撮っていました。
この写真を撮ってからも既に7年位経ってしまいました。
A-20はもう50年も前に作られた製品ですが、拙宅のものは故障も無くモーターとフライホイール、そしてカウンター用のゴムベルトを交換しただけで現在も使えます。
この頃の製品は本当に丈夫に出来ています。
右の写真を見る度に、親亀の背中に子亀を乗せてというフレーズを思い出します。